オール・ブラック - α - 脳//Nous (前編)

オール・ブラック
- α -
ノウス
2010年(ねん)6月(がつ)19日(にち)
場所(ばしょ)不詳(ふしょう)
時期(じき)不明(ふめい)
「僕(ぼく)らは死(し)ぬ時(とき)、何(なに)を見(み)るだろう?」
その言葉(ことば)は僕(ぼく)が動(うご)く出来(でき)ずにながら、思考(しこう)に浮(う)かんでた。そうながら、この白(しろ)いと灰色(はいいろ)の空(そら)をずっと眺(なが)め続(つづ)けてた。この景色(けしき)は僕(ぼく)にとって、いつからかと何(なに)があったのか知(し)らずに、目覚(めざ)めた時(とき)からの初(はじ)めての風景(ふうけい)だった。その言葉(ことば)も僕(ぼく)にとっては初(はじ)めての考(かんが)え事(こと)。知(し)らないが、それはただ僕(ぼく)の本能(ほんのう)が「僕(ぼく)は生(い)きているか?」と教(おし)えた。
だがね気(き)になった。僕(ぼく)らを死(し)ぬ時(とき)何(なに)をみる?頭(あたま)は弱(よわ)すぎて、今(いま)は疑似体験(ぎじたいけん)できない。その問題(もんだい)は未回答(みかいとう)まま。でも僕(ぼく)が今(いま)この無限(むげん)な、それなのに虚無(きょむ)な宇宙(そら)を眺(なが)め出来(でき)るって事(こと)は確(たし)かに、「僕(ぼく)は生(い)きている」。そう分(わ)かると、自分(じぶん)の体(からだ)もずっと何(なに)も固体(こたい)な地面(じめん)に到(いた)ないまま事(こと)を気(き)づいた。その時(とき)まをずっと待(ま)っていて、僕(ぼく)はただ瞼(まぶた)を瞬(まばた)くだけ。そして気(き)づいたんだ、これは落下(らっか)ではなく、何(なに)か別(べつ)を。
それに、僕(ぼく)の体(からだ)は塗(ぬ)れている。身体(しんたい)の全体(ぜんたい)が潤(うるお)い布地(ぬのじ)に包(つつ)まれている。雨粒(あめつぶ)が僕(ぼく)の顔(かお)を落(お)ちそして弾(はず)んで、その度(たび)にこの濡(ぬ)れている布(ぬの)が雨粒(あめつぶ)を吸(す)う。この上(あ)がいてると下(さ)がっている連(つ)れていく感覚(かんかく)は、僕(ぼく)は一人(ひとり)で嵐(あらし)の海(うみ)に浮流(ふりゅう)している事(こと)を気(き)づいた。
しばらく後(あと)耳(みみ)が発動(はつどう)始(はじ)めた、僕(ぼく)を聞(き)こえる声(こえ)は天(そら)を送(おく)り雨粒(あめつぶ)が海(うみ)に積(つ)み上(あ)がりの音(おと)しか聞(き)こえない。音楽(おんがく)ではなくても、その音(おと)はなんか美(うつく)しく聞(き)こえてる。たまに、海(うみ)が僕(ぼく)を情(なさ)けているかと思(おも)う。なぜなら嵐(あらし)の中(なか)でも波(なみ)が強(つよ)いでも、この海(うみ)の強(つよ)い波(なみ)は僕(ぼく)を飲(の)み込(こ)むこと一度(いちど)もない。
僕(ぼく)はいつでも没(おぼ)れられる、だがこの海(うみ)は企(たくら)みがある見(み)たい。理論的(りろんてき)には、僕(ぼく)の体(からだ)の重(おも)さは海水(かいすい)の密(ひそか)を貫(つらぬ)く事(こと)が足(た)りない、それが僕(ぼく)の没(おぼ)れないの理由(りゆう)。しかし僕(ぼく)は、何(なに)かが動(うご)いている事(こと)を考(かんが)えるのも止(と)まれられない。
正直(しょうじき)、この事態(じたい)から潜(もぐ)るのも疑(うたが)っている。広(ひろ)い所(ところ)に一人(ひとり)で、声(こえ)を出(だ)すでも、僕(ぼく)の悲鳴(ひめい)は誰(だれ)かに届(とど)けても思(おも)えない。
「...」
それをやってみた。僕(ぼく)は声(こえ)を出(だ)す見(み)ても、何(なに)も出(で)てこなかった。この事情(じじょう)の辛(つら)いさも、僕(ぼく)を包(つつ)む濡(ぬ)れている布(ぬの)の寒(さむ)さも、癒(いや)し系(けい)な波(なみ)のユラリと嵐(あらし)の子守歌(ララバイ)も、そして嵐(あらし)を隠(かく)している天(てん)と言(い)う空(そら)を晴(は)れてるの白黒(キアロスクーロ)も、僕(ぼく)の弱(よわ)い体(からだ)は眠(ねむ)いを抗(あらが)えない。僕(ぼく)は眠(ねむ)りと勝(か)てない戦(たたか)いに落(お)ちた。
「...」
「誰(だれ)かがいるぜ!」
「...」
「早(はや)く助(たす)け!」
「...」
「せーのっ!!」
「...」
「アイツ生(い)きている?」
「息(いき)はあるか?」
「なんでこんな所(ところ)に?」
「...」
「だめだ!心臓(しんぞう)の鼓動(こどう)が弱(よわ)すぎっ!!」
「...」
「...」
「...」
「もう何(なに)も出来(でき)ない、あとは彼(かれ)の次第(しだい)だ。」
「...」
夢(ゆめ)かと思(おも)った、僕(ぼく)は夢(ゆめ)のない寝(ね)むりの中(なか)に、僕(ぼく)の末梢聴覚(まっしょうちょうかく)に騒音(そうおん)が聞(き)こえた気(き)がする。春眠(しゅんみん)なのに、体(からだ)は作動(さどう)している。だけどアレは僕(ぼく)を起(お)こすのも足(た)りない、むしろ夢(ゆめ)を見(み)始(はじ)まった。現実(げんじつ)と言(い)う、痛(いた)ましい時(とき)の中(なか)にやったのない事(こと)を経験(けいけん)する、ただの夢(ゆめ)ではなく、この夢(ゆめ)はリアル過(す)ぎて僕(ぼく)に閉(と)じ込(こ)めた感覚(かんかく)をする、それに僕(ぼく)は「どっちがリアルかとどっちがリアルじゃないか」を見分(みわ)ける事(こと)を辛(つら)くになった。
瞼(まぶた)を開(あ)けると、僕(ぼく)の目玉(めだま)は僕(ぼく)の前(まえ)の木造(もくぞう)の机(つくえ)を目(もく)する。その間(あいだ)、僕(ぼく)は腕(うで)が肘掛(ひじか)けに憩(いこ)いてるで椅子(いす)に座(すわ)っている事(こと)も気(き)づいた。ゆっくり頭(あたま)を上(あ)げて、いきなり少(すこ)しの揺(ゆ)らりを感(かん)じた。僕(ぼく)は少(すこ)し回(まわ)した、それで僕(ぼく)は回転椅子(かいてんいす)に座(すわ)っている事(こと)を分(わ)かった。
「目覚(めざ)めたか?」
一(ひと)つの声(こえ)が僕(ぼく)を驚(おどろ)かせた、その声(こえ)の原因(げんいん)を見(み)つけるために、暫(しば)し僕(ぼく)はジロジロ振(ふ)り向(む)いた。だがその声(こえ)を見(み)つけることさえ、僕(ぼく)は一(ひと)つ異様(いよう)な事(こと)を見(み)つけた。僕(ぼく)がいるこの場所(ばしょ)は、まさにどこにもない。椅子(いす)や机(つくえ)や僕(ぼく)のある場所(ばしょ)は広(ひろ)い部屋(へや)での床(ゆか)は底(そこ)なしの黒(くろ)でと天井(てんじょう)は底(そこ)なし白(しろ)でと壁(かべ)は、もしあるでも、その黒(くろ)と白(しろ)の階調(かいちょう)だった。
「怯(おび)えてないで、僕(ぼく)を君(きみ)を屑付(くずつ)けない事(こと)を覚(おぼ)えてください。」
僕(ぼく)は僕(ぼく)が座(すわ)っている椅子(いす)からふいっと立(た)った、またその声(こえ)の原因(げんいん)を探(さが)す。一度(いちど)周覧(しゅうらん)した、後(うし)ろからまた後(うし)ろまで、だが無駄(むだ)だった。僕(ぼく)はこの場所(ばしょ)に一人(ひとり)だけ。
「どうぞ座(すわ)って―――君(くん)、全(すべ)てを説明(せつめい)する。」
僕(ぼく)をテッキリ振(ぶ)り向(む)かった、今度(こんど)はその声(こえ)が後(うし)ろから来(き)たのは確(たし)かから。そして机(つくえ)の向(む)こうにあった一(ひと)つの謎(なぞ)の影法師(かげぼうし)を見(み)ると目玉(めだま)が脹(ふく)れた。彼(かれ)の全体(ぜんたい)は闇(やみ)に包(つつ)まれて、彼(かれ)の実体(じったい)も見(み)に辛(つら)い。だが彼(かれ)の影法師(かげぼうし)から、彼(かれ)は170CM(センチ)くらいと白衣(はくい)を着(き)るは分(わ)かった。
「って、アイツ、僕(ぼく)のこと何(なん)て呼(よ)んだ?」
彼(かれ)が僕(ぼく)を呼(よ)ぶのは確(たし)か。彼(かれ)が言(い)った事(こと)全(すべ)て聞(き)こえた、だが何度(なんど)でもリワインドしてみても、僕(ぼく)の名前(なまえ)さえ聞(き)こえなかった。
「君(きみ)は我々(われわれ)の計画(プログラム)を参加(さんか)したいですてなぁ――」
「僕(ぼく)の事(こと)を何(なん)と呼(よ)んだ?!」
僕(ぼく)は起(た)ち上(あ)がった、そして机(つくえ)を巡(めぐ)り歩(ある)く。しかし彼(かれ)の姿(すがた)を掴(つか)め見(み)たら、僕(ぼく)の手(て)はただ彼(かれ)の形体(けいたい)過(す)ぎるだけ、幽霊(ゆうれい)を掴(つか)めるように。僕(ぼく)の指(ゆび)を彼(かれ)の姿(すがた)に接(つ)ぐ瞬間(しゅんかん)に、彼(かれ)の存在(そんざい)はバット消(き)えた、また僕(ぼく)はジロジロ振(ふ)り向(む)かいて。彼(かれ)の姿(すがた)は消(き)えてしまっても、彼(かれ)の声(こえ)はまだ僕(ぼく)の後(うし)ろから聞(き)こえてる。
「――我々(われわれ)は君(きみ)に感謝(かんしゃ)する。この計画(プロジェクト)が成功(せいこう)したら、すごい事(こと)を果(は)たす事(こと)を信(しん)じて。」
僕(ぼく)はまた回(まわ)ったら、この空間(へや)の論理(ろんり)は歪(ゆが)んだ事(こと)を見(み)つけた。僕(ぼく)が巡(めぐ)り歩(ある)いた机(つくえ)は僕(ぼく)からは少(すく)なくとも四歩(よんほ)くらいはず。だが振(ふ)り向(む)かったらその物(もの)は僕(ぼく)の前(まえ)にあった。恐(おそ)れてた、僕(ぼく)は一歩(いっぽ)退(ひ)かけた。だが僕(ぼく)の太股(ふともも)は何(なに)かの硬(かた)いものとぶつけて、バランスを失(うしな)った。僕(ぼく)は個体(こたい)な地面(じめん)に転(ころ)ぶを準備(じゅんび)した、けれど僕(ぼく)の転(ころ)ぶは中途(ちゅうと)に止(と)まった、僕(ぼく)は別(べつ)の物(もの)に倒(たお)れ掛(か)かった、あの回転椅子(かいてんいす)に。
この現象(げんしょう)は僕(ぼく)にビックリをさせた。過呼吸(かこきゅう)を始(はじ)まった、鼻(はな)だけでもなく、口(くち)からでも。すぐに落(お)ち着(つ)くべきのは知(し)っている、それから口(くち)を閉(し)めた。急(きゅう)に呼吸(こきゅう)パタンを変化(へんか)するのは唾液(だえき)を飲(の)み込(こ)んでしまった。皮肉(ひにく)に僕(ぼく)は咽(むせ)られた。けど助(たす)かった、僕(ぼく)は少(すこ)し落(お)ち着(つ)いた。
しかし僕(ぼく)はまだ何(なに)が起(お)こるのは全然(ぜんぜん)知(し)らない。「生(い)きていないのか?」ほど疑(うたが)っている。正直(しょうじき)この空間(へや)も、この椅子(いす)も、この机(つくえ)も、その幽霊(ゆうれい)を掴(つか)める感触(かんしょく)も、自分(じぶん)の浸液(しんえき)に咽(むせ)られてたの感覚(かんかく)も、そしてこの椅子(いす)に落(お)ちる感(かん)も、全(すべ)ては夢(ゆめ)にはとてもリアル過(す)ぎる。
「今(いま)からキミはこの施設(しせつ)に住(す)むことになる。キミの望(のぞ)む物(もの)は可能(かのう)なら上(あ)げる。だが我々(われわれ)はキミが必(ひつ)要(よう)場(ば)合(あい)には覚悟(かくご)欲(ほ)しい。」
色々(いろいろ)知(し)りたいが、僕(ぼく)の事(こと)は何(なん)と呼(よ)んだとか、彼(かれ)が言(い)った「プログラム」の意味(いみ)とか、彼(かれ)の正体(しょうたい)とか。でも聞(き)くのはもう諦(あきら)めた。今(いま)一番(いちばん)欲(ほ)しいのはここからを出(だ)すこと。
「たまには君(きみ)を直接(ちょくせつ)にチェックする。確(たし)かなスケジュールはないが、散発的(さんぱつてき)にやります。」
「黙(だま)れ!トットト僕(ぼく)を出(だ)してくれ!!」
僕(ぼく)は全力(ぜんりょく)で叫(さけ)んでた。だけど彼(かれ)は反応(はんのう)しなかった。むしろ僕(ぼく)は僕(ぼく)の大声(おおごえ)が響(ひび)かないことを気(き)づいた。この空間(へや)は無辺(むへん)のように。
「―で、今(いま)はこれくらいですね。我々(われわれ)の定員(ていいん)が君(きみ)を君(きみ)の部屋(へや)へ送(おく)ります。何(なに)かを欲(ほ)しいがあったら、知(し)らせてください。それでは、ぜひ、よろしくお願いします。」
もう我慢(がまん)できない、この部屋(へや)に閉(と)じ込(こ)めるならいや。叫(さけ)びたい。肺(はい)を壊(こわ)すほど叫(さけ)びたい。僕(ぼく)を座(すわ)っている椅子(いす)から立(た)ち上(あ)がった、そうやってながら、木(き)の机(つくえ)の面(おもて)をバダンと叩(たた)いた。
「この聾(つんぼ)ものメ!僕(ぼく)を出(だ)してくッ―――」
一瞬(いっしゅん)だけで、何(なに)かが始(はじ)まったのを感(かん)じた。今度(こんど)は「どっちがリアルかどっちがリアルじゃないか」ハッキリ分(わ)かる。この感覚(かんかく)は目隠(めかく)しながら飛行機(ひこうき)から落(お)とせた感覚(かんかく)と似(に)ているもの。
「―――れ!!!」
夢(ゆめ)の最後(さいご)にやった事(こと)を続(つづ)けるままで僕(ぼく)は目覚(めざ)めた、全力(ぜんりょく)で大声(おおごえ)出(だ)している。すごく大声(おおごえ)出(だ)して、その5秒(びょう)くらい僕(ぼく)の声(こえ)だけしか聞(き)こえない。この変換(へんかん)は僕(ぼく)に少(すこ)しまごついたけど、でも新(あたら)しい現場(げんじょう)に慣(な)れるのは何秒(なんびょう)だけで掛(か)かった。
叫(さけ)ぶ後(あと)ですぐ、僕(ぼく)の視聴覚(しちょうかく)が覚(さ)めた。まずはここはどこか確認(かくにん)しないと。いま、僕(ぼく)は白(しろ)い部屋(へや)の中(なか)にいる寝台(しんだい)で座(すわ)っている。この部屋(へや)には一床(いっしょう)の寝台(しんだい)と、一対(いつい)の椅子(いす)と机(つくえ)と、一面(いちめん)の鏡(かがみ)、そしてそのとなりに一着(いちちゃく)コートと薬(くすり)の戸棚(とだな)。
なんか頭(あたま)が少(すこ)しクラクラすると感(かん)じた。それでこの部屋(へや)は船(ふね)の一部(いちぶ)を気(き)づいた。そして慌(あわ)ててな足音(あしおと)をドンドン聞(き)こえてる。この部屋(へや)は扉(とびら)がない戸口(とぐち)があって、その戸口(とぐち)はドレープで閉(し)めて。
そとの足音(あしおと)が近(ちか)づくながら、僕(ぼく)は本能的(ほんのうてき)に反応(はんのう)した。この部屋(へや)に何(なに)かが武器(ぶき)にされる物(もの)はあるかと探(さが)した。だけど使(つか)えそうな物(もの)を見(み)つからない。その足音(あしおと)が着(つ)いたまで、僕(ぼく)は素手(すで)のまま。
急(きゅう)にドレープの扉(とびら)は開(あ)けた、集中(しゅうちゅう)が武器(ぶき)を探(さが)してからその戸口(とぐち)に採(と)れた。あそこに二人(ふたり)の強(つよ)いそうな男(おとこ)がある、彼(かれ)らは僕(ぼく)の目(め)に睨(にら)めている。
「オイ!ソイツ目覚(めざ)めたぞっ―――」
その男(おとこ)は大声(おおごえ)を出(だ)した。大声(おおごえ)を出(だ)したが、僕(ぼく)は彼(かれ)の顔(かお)に枕(まくら)を投(な)げたで彼(かれ)を黙(もだ)させた。自分自身(じぶんじしん)まで驚(おどろ)いた、僕(ぼく)の投(な)げた枕(まくら)は彼(かれ)を後(うし)ろの戸口(とぐち)まで倒(たお)して強(つよ)かった。そうして、もう一人(ひとり)の男(おとこ)は乱暴(らんぼう)な顔(かお)で僕(ぼく)に衝撃(しょうげき)掛(か)けた。彼(かれ)の策(さく)はだいたい読(よ)める、彼(かれ)は僕(ぼく)を寝台(しんだい)に押(お)する。
彼(かれ)が僕(ぼく)に到(いた)る前(まえ)に、僕(ぼく)は彼(かれ)の肩(かた)に飛(と)び下(お)りた、右足(みぎあし)で彼(かれ)の左肩(ひだりかた)に踏(ふ)む。自分(じぶん)の重(おも)さを使(つか)って、彼(かれ)を後(うし)ろに倒(たお)したいが、結局(けっきょく)僕(ぼく)の体重(たいじゅう)は彼(かれ)を踏(ふ)み破(やぶ)るのは足(た)りなかった。けどこのままで彼(かれ)の肩(かた)を蹴(け)りでも彼(かれ)は十分(じゅうぶん)飛(と)ばした。
彼(かれ)の背中(せなか)は壁(かべ)を突(つ)き当(あ)たった、その近(ちか)くに薬(くすり)の戸棚(とだな)も当(あ)たった、その戸棚(とだな)の中身(なかみ)は溢(あふ)れた。薬瓶(くすりびん)たちは床(ゆか)に落(お)ちて、ソレゾレのタブレットを吐(は)き出(だ)した。少数(しょうすう)のガラス瓶(びん)は壊(こわ)れたが、プラスチック瓶(びん)は落(お)ちを立(た)つ、中身(なかみ)を吐(は)き出(だ)すだけ。
乱雑(らんざつ)のタブレットの中(なか)で僕(ぼく)は薬(くすり)の戸棚(とだな)からハサミも落(お)ちたのは見(み)かけた。相手(あいて)がまだ立(た)ち直(なお)れないうちに、僕(ぼく)はこのチャンスを奪(うば)いた、そのハサミを拾(ひろ)い、そして右手(みぎて)に握(にぎ)りしめて。
ちょうどハサミを拾(ひろ)った後(あと)、その男(おとこ)たちの一人(ひとり)は僕(ぼく)の右手(みぎて)を捕(つか)まえるながら彼(かれ)の右肩(みぎかた)で僕(ぼく)を突(つ)き放(はな)した。その推力(すいりょく)は僕(ぼく)を後(うし)ろに飛(と)ばした、寝台(しんだい)に突(つ)き当(あ)たるに十分(じゅうぶん)強(つよ)かった。僕(ぼく)の手首(てくび)を握(にぎ)って、彼(かれ)は僕(ぼく)を押(お)さえている。彼(かれ)の握(にぎ)りはキツすぎて、僕(ぼく)を握(にぎ)っているハサミを手放(てばな)しさせた。僕(ぼく)は自由(じゆう)の左手(ひだりて)で彼(かれ)の顔(かお)を引(ひ)っ掻(か)きでも効(き)かなかった。
その後(あと)僕(ぼく)は僕(ぼく)の足(あし)がまだ自由(じゆう)してると気(き)づいた。早速(さっそく)僕(ぼく)は自分(じぶん)の足(あし)を彼(かれ)の腹(はら)に引(ひ)っ張(ぱ)り、そしてそのまま全力(ぜんりょく)で彼(かれ)を蹴(け)り飛(と)ばす。彼(かれ)はバランスを取(と)ってみても、床(ゆか)に散(ち)らばれたタブレットはそれを辛(つら)くになった。結局(けっきょく)彼(かれ)は後頭部(こうとうぶ)を壁(かべ)にぶつけて、床(ゆか)に転(ころ)んだ。
彼(かれ)は苦(くる)しく呻(うめ)く、頭(あたま)が痛(いた)いだろう。彼(かれ)の頭(あたま)が壁(かべ)とぶつけての声(こえ)は僕(ぼく)の気(き)を外(そと)の慌(あわ)ててな足音(あしおと)から逸(そ)らすほど大(おお)きかった。早速(さっそく)僕(ぼく)の右(みぎ)にあったあのハサミに目(め)を逸(そ)らした、あれを直(す)ぐに左手(ひだりて)で拾(ひろ)う、右手(みぎて)がまだ痛(いた)いし。
目(め)の済(すみ)から、戸口(とぐち)で立(た)ってる四(よっ)つの男(おとこ)を見(み)かけた。彼(かれ)らは敬(うやま)い目(め)で床(ゆか)に倒(たお)れた二人(ふたり)を見(み)た後(あと)、僕(ぼく)に睨(にら)んで。息(いき)を継(つ)ぎ、ハサミに握(にぎ)りを締(し)めて。左足(ひだりあし)はソット床(ゆか)に近(ちか)づき、個体(こたい)な地面(じめん)を求(もと)め、彼(かれ)らに突撃(とつげき)の準備(じゅんび)をする。
「ほら!彼(かれ)を抑(おさ)えろっ!!」
急(きゅう)に外(そと)からの声(こえ)が命(めい)じた。その声(こえ)は全員(ぜんいん)の気(き)を逸(そ)らしたけど、僕(ぼく)に突撃(とつげき)のチャンスもくれた。ハサミを持(も)って突進(とっしん)した。僕(ぼく)一人(ひとり)で四人(よんにん)倒(たお)せるなんてなさそう。でもドサクサ紛(まぎ)れになら、彼(かれ)ら一人(いちにん)を人質(ひとじち)するなら出来(でき)るかもしれない。
彼(かれ)らの一番(いちばん)近(ちか)くにいるヤツまではあと三歩(さんぽ)、だが一歩(いっぽ)だけで彼(かれ)らは気(き)づいた。前(まえ)にあった男(おとこ)は僕(ぼく)の攻撃(こうげき)を避(さ)けた、だがその後(あと)彼(かれ)は何(なに)もやらない。変(か)わりに他(ほか)の男(おとこ)は僕(ぼく)の手首(てくび)を掴(つか)まえてともう一人(ひとり)が僕(ぼく)の胸(むね)を取(と)り組(く)まえた。彼(かれ)らは僕(ぼく)をベッドに押(お)し込(こ)まえた。
彼(かれ)ら二人(ふたり)が僕(ぼく)を抑(おさ)えたら、他(ほか)の二人(ふたり)も携(たずさ)えて、振(ふ)り放(はな)すのももっと難(むずか)しくなる。僕(ぼく)の左(ひだり)手首(てくび)を抑(おさ)えている男(おとこ)は僕(ぼく)の手(て)を噛(か)んだ、僕(ぼく)は悲鳴(ひめい)を上(あ)げた、そして握(にぎ)りも放(はな)った。そのハサミで彼(かれ)は何(なに)をするかが分(わ)からない、見(み)えないから。最悪(さいあく)の場合(ばあい)を待(ま)ち設(もう)けているが、彼(かれ)ら全員(ぜんいん)は傷付(きずつ)けずにずっと僕(ぼく)を抑(おさ)えてだけ。
この混乱(こんらん)の中(なか)で、誰(だれ)かが部屋(へや)を入(はい)ったのは気(き)づいた。彼(かれ)の部下(ぶか)が僕(ぼく)を押(お)さえてながら、彼(かれ)は僕(ぼく)に近(ちか)づいてる。首謀者(しゅぼうしゃ)か?僕(ぼく)をこんなメにさせた人(ひと)か?
僕(ぼく)の残(のこ)り力(ちから)全(すべ)てで、立(た)ち上(あ)がって見(み)た。驚(おどろ)いたが、僕(ぼく)は彼(かれ)ら全員(ぜんいん)を堪(こら)える強(つよ)かった。ギリギリだけど、漸(ようや)く彼(かれ)の目(め)と会(あ)った。彼(かれ)は緑(みどり)のスエーターを着(き)る男(おとこ)だった。彼(かれ)を見受(みう)けたそのあとから、彼(かれ)は下(さ)がった、遠(とお)ざかっている。四人(よんにん)の男(おとこ)は全力(ぜんりょく)で僕(ぼく)を抑(おさ)えてる、二人(ふたり)が僕(ぼく)の手(て)を、もう二人(ふたり)は僕(ぼく)の胴体(どうたい)に。けれど彼(かれ)らの抵抗(ていこう)は無駄(むだ)だった、四人(よんにん)の併(あわ)せた力(ちから)より僕(ぼく)一人(ひとり)はもっと強(つよ)かった。
「大丈夫(だいじょうぶ)、泡(あわ)てる必要(ひつよう)はない。」
緑(みどり)のスエーター男(おとこ)はジワジワ近(ちか)づく。彼(かれ)の右手(みぎて)を上(あ)がって僕(ぼく)の額(がく)を触(さわ)って。その後(あと)鼻(はな)の下(した)に潤(うるお)い感(かん)が感(かん)じた、何(なに)かの液(えき)が鼻穴(びけつ)から切歯(せっし)にダラダラ流(なが)れる、そこでアレは血(ち)の味(あじ)を分(わ)かった。
「落(お)ち着(つ)け!お前(まえ)は鼻血(はなぢ)出(で)てるんだ!」
その男(おとこ)はクッキリ言(い)い聞(き)かす。言(い)わなくても、力(ちから)が徐々(じょじょ)いなくなる。すぐ弱(よわ)くなる、立(た)ちないほど弱(よわ)い。四人(よんにん)の抑(おさ)えも浮(う)くになる、でも彼(かれ)らの支(ささ)えがないと、僕(ぼく)は立(た)ちない。
僕(ぼく)が転(ころ)ばす瞬間(しゅんかん)で、その男(おとこ)は僕(ぼく)を捕(つか)まえた。彼(かれ)のちょっと高(たか)いな姿(すがた)が僕(ぼく)は彼(かれ)の顔(かお)を見(み)ると少(すこ)し見上(みあ)げて行(い)けない。
「何(なに)があった?ここはどこだ?僕(ぼく)は―」
弱(よわ)いでも連続(れんぞく)の質問(しつもん)を聞(き)かせた。もういつまで意識(いしき)するのか分(わ)からないから。せめてその質問(しつもん)の一(いつ)が答(こた)えたらいいな。
「安心(あんしん)して。お前(まえ)は色々(いろいろ)知(し)りたいのは知(し)っている。」
「答(こた)えて― チョッ― 僕(ぼく)は… 誰(だれ)?」
「休(やす)め。」
彼(かれ)の声(こえ)は僕(ぼく)の意識(いしき)のともにドンドン遠(とお)ざかってる。
「話(はなし)は後(あと)だ。」
「...」
...
また、夢(ゆめ)のない眠(ねむ)りに落(お)ちてしまった、でも休(やす)むのは不安(ふあん)過(す)ぎて出来(でき)ない。次(つぎ)に気(き)づくのは、僕(ぼく)はまたあの部屋(へや)に戻(もど)った。机(つくえ)に手(て)を上(あ)がった、一度(いちど)二度(にど)叩(たた)いて見(み)た。声(こえ)も感覚(かんかく)も、どっちもリアル感(かん)じた。けれど僕(ぼく)は確(たし)かだ、この空間(へや)は現実(げんじつ)じゃない。
「ここは何(なん)だ?」
また質問(しつもん)が加(くわ)えた、まるで今(いま)のあった問題(もんだい)は悩(なや)むに足(た)りない。この場所(ばしょ)の孤独(こどく)は僕(ぼく)を安心(あんしん)な顧(かえり)みるの機会(きかい)をくれた。自分(じぶん)で答(こた)えを探(さが)してみた、でも真理(しんり)を造(つく)る事実(じじつ)が足(た)りない。
「何(なに)があったんだ?どうして僕(ぼく)はここに着(つ)いたんだ?」
それが最初(さいしょ)の質問(しつもん)。
最後(さいご)に覚(おぼ)える事(こと)、皮肉(ひにく)にも最初(さいしょ)に覚(おぼ)える事(こと)は嵐(あらし)の下(もと)で目覚(めざ)ましてこと。
「でも何(なん)であそこになった?クソッ!何(なに)も覚(おぼ)えてない!」
頭(あたま)に掌(てのひら)を置(お)く、髪(かみ)をプリプリ引(ひ)っ掻(か)いして。何(なに)も知(し)らない自分(じぶん)が嫌(きら)い。
「僕(ぼく)は誰(だれ)なんだ?こんなメにあって何(なに)をした?」
「おはよう、―――君(くん)。」
「なに?」
また起(お)こしている。僕(ぼく)は一人(ひとり)じゃない。誰(だれ)かや何(なに)かが話(はな)している。それだけでもなく、その声(こえ)は僕(ぼく)の名前(なまえ)を呼(よ)んだ、でもそれをまだ聞(き)こえてなかった。
「誰(だれ)だ?」
周(まわ)りを調(しら)べた、他(ほか)の声(こえ)を待(ま)った。自分(じぶん)が狂(くる)ってないって信(しん)じさせてくれ。
「誰(だれ)だ?」
また声(こえ)が出(で)た。でも良(よ)いではない。その声(こえ)知(し)ってる。それは僕(ぼく)の声(こえ)だ。
声(こえ)が響(ひび)いたか?いいえ、そうはずない。その声(こえ)は確実(かくじつ)に僕(ぼく)の声(こえ)だった、僕(ぼく)の声(こえ)がもう一(ひと)つの声(こえ)に返事(へんじ)さした。覚(おぼ)えてないが、でもなんか次(つぎ)は何(なに)を言(い)うのが分(わ)かるような。僕(ぼく)がこの部屋(へや)を支配(しはい)してるか?この部屋(へや)が僕(ぼく)を支配(しはい)してるか?どっちなんだ?
「私(わたし)はこの計画(プログラム)の担当者(たんとうしゃ)です。」
急(きゅう)に右(みぎ)から黒(くろ)い影(かげ)が現(あらわ)れた。彼(かれ)は机(つくえ)の向(む)こうまで、姿(すがた)が丸(まる)見(み)えるになって歩(ある)き回(まわ)った。彼(かれ)はこの部屋(へや)とこの前(まえ)にあった人(ひと)は全(まった)く別人(べつじん)だった。この人(ひと)はちょっとだけ背(せい)が高(たか)く、180CM(センチ)くらい。スーツを着(き)る。髪(かみ)もキレイに逆毛(さかげ)した。
「じゃ、あなたはアインホーン博士(はかせ)ですね?」
僕(ぼく)は僕(ぼく)の心霊(しんれい)の声(こえ)が「次(つぎ)はなにを言(い)うか」当(あ)たりに察(さっ)した。そこでこれは僕(ぼく)が経験(けいけん)する事(こと)ではなく、これは僕(ぼく)が経験(けいけん)した事(こと)だったと気(き)づいた。未完成(みかんせい)でもこの部屋(へや)は僕(ぼく)の記憶(きおく)にあった場所(ばしょ)だった。でもどうしてもこのアインホーン博士(はかせ)の事(こと)も、彼(かれ)が僕(ぼく)の事(こと)なんて呼(よ)んだも、この部屋(へや)には何(なに)があったのは思(おも)え出(だ)せない。
その影(かげ)は座(すわ)っている僕(ぼく)に近(ちか)づいた、そして握手(あくしゅ)を供(そな)えた。イジイジで手(て)を上(あ)がった、彼(かれ)の身振(みぶ)りを返(かえ)す。驚(おどろ)いたが、彼(かれ)の影(かげ)だらけの手(て)を触(さわ)った時(とき)、本物(ほんもの)の手(て)の感触(かんしょく)が感(かん)じた。その感触(かんしょく)は確(たし)か、革(かわ)と、筋(すじ)と、そして骨(ほね)と。彼(かれ)の握(にぎ)りは強(つよ)い、でも彬(あきら)しい、なんか生(い)きている像(ぞう)と握手(あくしゅ)しているみたい。
「で?上達(じょうたつ)はどう?」
「イヤァ、まだ基本(きほん)に引(ひ)っ掛(か)かるので。でも知(し)りたいが、僕(ぼく)は何(なに)を果(は)たすべきでしょうか?」
彼(かれ)は話(はな)す時(とき)、僕(ぼく)は何(なに)を返事(へんじ)するかもう分(わ)かった。これはまるで、知(し)らない過去(かこ)をまた経験(けいけん)するように。ここには僕(ぼく)と彼(かれ)が会話(かいわ)しているが、でも僕(ぼく)はただ傍観者役(ぼうかんしゃやく)、ただ見(み)つめているだけ。
「部下(ぶか)がまだ言(い)ってないのか?」
「詳(くわ)しくはまだ...」
「では、何(なに)を知(し)りたい?」
「じゃ、最初(さいしょ)からでどうですか?」
「最初(さいしょ)からかね...じゃ...」
少(すこ)し考(かんが)え込(こ)む、何(なに)を言(い)いするか考(かんが)えているみたい。
「キミは...この世界(せかい)をどう思(おも)う?」
「はい?」
「キミはこの世界(せかい)を束(たば)ねている老(お)いると弱(よわ)いが若(わか)いと腕扱(うでこ)きを操(あやつ)られてる世界(せかい)はどう思(おも)う?」
「...」
しばらく沈黙(ちんもく)した。もしこれは思(おも)い出(で)でも、僕(ぼく)はそう聞(き)かされてもしょうがない。
「そうすれば、好(す)きじゃないな。」
「だろうな。昔(むかし)、私(わたし)は命(いのち)の価値(かち)を知(し)る前(まえ)に、人(ひと)を殺(ころ)し過(す)ぎたんだ。」
「えっ?アインホーン博士(はかせ)は戦士(せんし)だったのか?」
「そう。我(わ)がの過去(かこ)は善事(ぜんじ)に変(か)えられない過去(かこ)なんだ。」
「...」
「辛(つら)かった、誰(だれ)にも知(し)れされない辛(つら)いさなんだ。」
「それで何(なん)とかするって決(き)めた?」
「あぁ。その為(ため)にキミが必要(ひつよう)。」
「僕(ぼく)が?」
「キミは時空移動(タイム・トラベル)を知(し)ってるでしょうね?」
「そうけど、僕(ぼく)はそれでなんだ?」
「二年前(にねんまえ)、私(わたし)は重要(じゅうよう)な大事件(だいじけん)が目撃(もくげき)した。アレはもう私(わたし)にとって一番(いちばん)緊要(きんよう)な体験(たいけん)だろう。」
「何(なん)の事件(じけん)ですか?」
「それは長(なが)い話(はなし)さぁ。でもアレはこの世界(せかい)を変化(へんか)する方法(ほうほう)を見(み)つかるの切(き)っ掛(か)けだ。」
「あっ。でも...僕(ぼく)とタイム・トラベルの関係(かんけい)は何(なん)でしょうか?」
正直(しょうじき)、僕(ぼく)は迷(まよ)った。僕達(ぼくたち)は何(なに)を話(はな)しているは全(まった)く掴(つか)めない。タイム・トラベル?アインホーン博士(はかせ)と僕(ぼく)は何(なん)の関係(かんけい)がある?アインホーン博士(はかせ)は重要(じゅうよう)そう、彼(かれ)は僕(ぼく)に何(なに)があったのか知(し)ってるかも知(し)れない。彼(かれ)を探(さが)せなきゃ。
「でもね、今(いま)はハッキリ言(い)えない。私(わたし)は正(ただ)しのかはまだ知(し)らないだからなぁ。」
「もしあなたが間違(まちが)ったら?」
「...」
また沈黙(ちんもく)した、今度(こんど)は彼(かれ)の虚(うつ)ろな顔(かお)が僕(ぼく)に睨(にら)めている。可笑(おか)しいなっ。影(かげ)だけなのに、顔(かお)が無(な)くても、彼(かれ)の眺(なが)みから何(なに)かを感(かん)じた。情(なさ)けか?そうかもしれない、今(いま)僕(ぼく)は彼(かれ)を信(しん)じているような気(き)がする。
「その選択(せんたく)と戦(たたか)いはキミ次第(しだい)だ。私(わたし)はあくまでその存在(そんざい)がまだ分(わ)からないドアを見送(みおく)りだけ。」
「ドクター・アインホーン?」
急(きゅう)に後(うし)ろから別(べつ)の声(こえ)が僕達(ぼくたち)の会話(かいわ)を折(お)る、アインホーンの気(き)を逸(そ)らした。彼(かれ)は向(む)いた、僕(ぼく)の右(みぎ)のガランドウを眺(なが)めている、目(め)から話(はな)してるように。その後(あと)、彼(かれ)は首肯(うなず)いた、そしてまた僕(ぼく)に向(む)く。
「今日(きょう)の私達(わたしたち)の会議(かいぎ)はここまでだね。また今度(こんど)までなっ。」
それだけで、彼(かれ)は僕(ぼく)の右(みぎ)に後(うし)ろへ歩(ある)き回(まわ)った。彼(かれ)に睨(にら)めて、僕(ぼく)は彼(かれ)が椅子(いす)の後(うし)ろに着(つ)いたら遠(とお)ざかれてを見(み)つけた。
ここで一人(ひとり)になった、何(なに)をするか分(わ)からない残(のこ)された。僕(ぼく)にとってさっきの話(はなし)は無意味(むいみ)だった。質問(しつもん)はまた加(くわ)えた。両(りょう)の掌(てのひら)で顔(かお)を包(つつ)む、肘(ひじ)が膝(ひざ)に。目(め)もギッチリ閉(と)じて、開(あ)けたら全(すべ)てが悪夢(あくむ)だけだと望(のぞ)んでている。
「ねぇ、―――君(くん)」
また声(こえ)が聞(き)こえた、でもアレはまた別(べつ)の声(こえ)だった。今度(こんど)の声(こえ)は柔(やわ)らかくて癒(いや)し系(けい)な声(こえ)。アレは僕(ぼく)の名(な)を呼(よ)んだ、でもいつもと同(おな)じ、自分(じぶん)の聴覚(ちょうかく)が自分(じぶん)の名(な)を聞(き)くを塞(ふさ)げていた。なんかその声(こえ)は耳(みみ)慣(な)れてた声(こえ)だった、その製(せい)で僕(ぼく)は振(ふ)り向(む)けて、その声(こえ)の原因(げんいん)を探(さが)してる。
半回(はんかい)くらい回(まわ)ったら、椅子(いす)からでかなり遠(とお)い、白(しろ)い影(かげ)が立(た)ちながら手(て)を振(ふ)れているを見(み)つけた。不変(ふへん)な動(うご)きがなんか「お出(い)で」って呼(よ)んでた。僕(ぼく)は疑(うたが)いを消(け)せるながら立(だ)ち上(あ)がる。そのままでイジイジあの白(しろ)い影(かげ)を近(ちか)づき始(はじ)めた。
「ホラ!」
その影(かげ)の動(うご)きが変化(へんか)した、その影(かげ)は右(みぎ)から左(ひだり)へ手(て)を振(ふ)るを止(と)まった、そして縦(たて)に手(て)を降(ふ)って始(はじ)めた。
近(ちか)づけるほど、その影(かげ)は適当(てきとう)な輪郭(りんかく)に描(か)ける、アインホーン博士(はかせ)の影(かげ)のように、色(いろ)が違(ちが)うだけ。その腰(こし)の長(なが)さの髪(かみ)が手(て)の動(うご)きを隨(したが)うに揺(ゆ)れている。そしてその影(かげ)はワンピースを着(き)る、そして丸(まる)い帽子(ぼうし)を被(かぶ)る。その影(かげ)は女(おんな)の子(こ)の影(かげ)だった。
「早(はや)く!」
僕(ぼく)は後(あと)15歩(ほ)くらいで、彼女(かのじょ)は手(て)を下(さ)がったそして逃(に)げて始(はじ)めた。距離(きょり)を広(ひろ)がっていくながら彼女(かのじょ)はクスクス笑(わら)っている、僕(ぼく)に捕(つか)まえたいのように。
「待(ま)って!」
彼女(かのじょ)は僕(ぼく)を追(お)い始(はじ)めた前(まえ)に十分(じゅうぶん)距離(きょり)を作(つく)った。彼女(かのじょ)はあんまり早(はや)い走(はし)れない、追(お)いのもあんまり勉(つと)めない。だけど彼女(かのじょ)の影(かげ)を触(さわ)った時(とき)、彼女(かのじょ)の体(からだ)が何十(なんじゅう)の舞(ま)い上(あ)がると空(そら)に消(き)えるカラスに割(わ)れた。そのビックリのせいで僕(ぼく)は組(く)めた手首(てくび)で顔(かお)を隠(かく)した。不思議(ふしぎ)に、彼女(かのじょ)の笑(わら)い声(ごえ)は消(き)えてない。どこからかまだ聞(き)こえる。
「ホラ―――君(くん)!」
彼女(かのじょ)の声(こえ)がまた聞(き)こえた。今度(こんど)は追(お)い掛(か)けるすら、ムシするを決(き)めた。でもなぜかどこにも向(む)いたら彼女(かのじょ)はいつも僕(ぼく)の遠(とお)く前(まえ)にあった。
「もういい!!」
大声(おおごえ)出(だ)しで怒(いか)りを放(はな)った。だけどそのせいで、この空間(へや)の空(そら)と底(そこ)が回(まわ)り始(はじ)めた。黒(くろ)い底(そこ)が前(まえ)に移(うつ)す、そして灰色(はいいろ)の空(そら)も後(うし)ろに移(うつ)す、拠点(きょてん)を交換(こうかん)する。
この部屋(へや)の班列(はんれつ)の変化(へんか)に恐(おそ)れてる。もうここから出(だ)したい。四回(よんかい)くらい僕(ぼく)は出口(でぐち)やあの椅子(いす)と机(つくえ)を見(み)つからず探(さが)した。五回(ごかい)に回(まわ)ったわ急(きゅう)に、あの白(しろ)い影(かげ)を見(み)つけた。でも今度彼女(こんどかのじょ)は逆様(さかさま)に垂(た)らした、虚(うつ)ろの顔(かお)を僕(ぼく)に睨(にら)めている。
「オソ~イ。」
「なっ―」
彼女(かのじょ)は僕(ぼく)の額(がく)を触(ふ)れた。彼女(かのじょ)の触(さわ)りは僕(ぼく)を怯(ひろ)んちゃった、瞼(まぶた)まで閉(し)まってた。彼女(かのじょ)の触(さわ)りがこの空間(へや)を破壊(はかい)する、その触(さわ)り感触(かんしょく)はすぐ僕(ぼく)の周(まわ)りからの破裂(はれつ)と爆風(ばくふう)で忘(わす)れていた。この空間(へや)に何(なに)があったのかもう分(わ)からない。その後(あと)僕(ぼく)は気絶(きぜつ)した。夢(ゆめ)のない眠(ねむ)りに落(お)つしまった。時(とき)が過(す)ぎる、世界(ちきゅう)が回(まわ)る、全(すべ)ては僕(ぼく)意外(いがい)に。
fsc
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